札幌市近郊恵庭市の公認心理師／臨床心理士によるカウンセリングルームです。 対象地域：札幌市・千歳市・恵庭市・北広島市・江別市・苫小牧市

皆様、こんにちは。

 

 

札幌市近郊恵庭市の臨床心理士・公認心理師によるカウンセリングルーム「なおこ心理相談室」の足立直子です。

 

 

今日の恵庭は晴れて気持ちがよいです。
今日明日と気温が上がるようです。
春になっていくのを感じて、嬉しいです。

 

 

先日、「コンビニ人間」村田沙耶香（著）を読みました。
主人公は未婚で正規の就職をせず、コンビニでアルバイトを続ける30代の女性古倉恵子です。
そんな彼女の世界観は心理学的にとても興味深いと思いました。
そこらへんを皆様と考えていきたいと思います。

 

 

 

古倉恵子は、幼いころ、突飛な行動をすることがあり、周囲の大人は驚き、
学校では職員会議にもなって、母が学校に呼ばれたりし、両親は心配していました。
自分の行動で両親を悲しませることが心苦しく、彼女は家の外では極力口を利かないことに決めました。
皆の真似をするか、だれかの指示に従うか、どちらかにして、自ら動くことは一切やめたのです。
そのような学生生活を送っていたため、彼女は友達もできず、孤立していきました。
それはそれで両親は心配していました。

 

 

 

そんな古倉恵子は、自分の話し方を同僚の女性を真似ることで、コンビニの中では問題なく話すことができていました。
この状態は、心理学的には、自我同一性の拡散とも考えることができると思います。
自我同一性とは、アイデンティティともいい、それを確立することが青年期の目標であると考えられています。
どんな職業選択をし、どんな人間になろうとしているかについて、自分を反省し、これが矛盾なく全体として統一のとれた
体制を作っていれば、自分がだれであるかを明らかにすることができ、自我同一性が確立される、といいます。
古倉恵子は、20歳の大学生の頃にコンビニでアルバイトをはじめました。
この年齢は青年期にあたり、まさに自我同一性の確立に苦慮していた時期と思われます。
小さい頃から突飛な行動を繰り返し、‘素の自分’に自信をもてずにいた主人公にとって、
この青年期は、苦しい時代だったと思います。
主人公は、これを「人の真似をする」ことで取り繕ったのです。
これは、真の意味での自我同一性の確立ではありません。
とりあえず取り繕った、と考えたほうがよさそうです。

 

 

古倉恵子は、怒りの感情がありません。
怒りやイライラの場面が登場した時には、他者に同調して、何とか切り抜けています。
この「怒り」をもてない、ということは、自分の顔をもてないことにも繋がると思われます。
ムーミンのお話の中で、身体と顔が消えてしまった少女がムーミン家に来るお話があります。
この少女は同居していたおばさんに暴言を吐かれ続けたことで姿が消えてしまいました。
その少女にちびのミイは「怒ることができなくちゃ、あんたに自分の顔はもてません！」
と厳しく言います。
その少女は大好きなムーミンママをいたずらで海に落とそうとするムーミンパパに
怒ることで、顔を取り戻すことができるのです。
私は古倉恵子が「怒り」を感じられないことは、自分の顔をもてないことにも通じると思いました。
これは先ほどの自我同一性の確立に苦慮していることとも繋がると思われます。

 

 

 

また全体を通じて、古倉恵子はアスペルガー障がい的な要素をもっているかもしれない、
と思いました。
彼女は人の感情をダイレクトに感じることがなく、人の行動をみて、客観的に分析することで、適応しています。
このような点は、他者の感情を読めなかったり、誤読したりするアスペルガー障がいの人に似ています。
小さい頃から他者の気持ちにうとく、冷静に問題を解決しようとして、突飛な行動になってしまう主人公は、
アスペルガー障がいの傾向があると考えてもよいのではないか、と思いました。
また「話し方」も自分の話し方に自信がもてずに、人の話し方を真似、
洋服など身につけるものも、人の真似をして、適応しています。
これは常識的な行動を自然にとることができずに、苦慮した結果の対策であると考えられます。
この点もアスペルガー障がい的な部分であると思いました。

 

 

 

以上が私の考察です。
今回は心理学的に読んでみましたが、きっとそのほかの読み方も出来る小説だと思います。
とても魅力的な小説なので、まだお読みでない人は、ぜひ読んでみてください。
おススメです。