26May
札幌市近郊恵庭市の臨床心理士/公認心理師によるカウンセリングルーム「なおこ心理相談室」の足立直子です。
今日は不登校について皆様と考えていきたいと思います。
不登校とは学校に行けない/行かない状態であり、病気や疾患、障害ではありません。
しかしその背後に病気や疾患、障害が潜んでいる可能性があるので、注意が必要です。
以前は「学校恐怖症」「登校拒否」と呼ばれていましたが、近年は「不登校」と呼ぶのが一般的です。
お子さんが不登校になると、親御さんはまず「私たちの育て方がまずかったのか?」と考える傾向にあるように思えます。
では本当に親の育て方の問題で不登校になることはあるのでしょうか。
確かに虐待など極端に育て方に問題があった場合、虐待などには至らないけれども育て方に偏りがあった場合などは、その影響として不登校が立ち現れることがあります。
しかし不登校は単一の原因に絞られないことにその特徴があるといえます。
育て方に偏りがあった場合でも、学校に通い続けられるお子さんは多数います。
児童養護施設に入所している子どもたちは、事実、学校に通い続けているお子さんが多数いるのです。
(家庭という受け皿がないため、不登校になれない、という側面もあります)
不登校はご家庭の問題、その子の個性、そして学校の環境が複合的に合わさって立ち現れてくる現象だと考えられます。
例えば、離婚の問題が起きているというご家庭の問題、その子が引っ込み思案だというその子どもの特徴、学校で友達ができない、という学校での問題が合わさって不登校になるのです。
一方で身体疾患が原因での不登校があります。
数が多いのは、起立性調節障害です。
起立性調節障害は、たちくらみ、失神、朝起き不良、動悸、頭痛などがみられる思春期に好発する自律神経機能不全の一つです。
朝起きられない、起きても頭痛や腹痛があらわれ、トイレから出られない。動機やめまいもして、酷い時には失神してしまう…という症状があらわれ、学校に行けなくなります。
これは小学生の約5%、中学生の約10%、重症は約1%にみられ、不登校の約3~4割にみられる、と言われています。
対応としては、座位や臥位から起立するときには、頭位を下げてゆっくり起立する、静止状態の起立保持は1~2分以上続けない、短時間の起立でも足をクロスする、などがあります。
当相談室に通っておられるクライエントさんでも、この疾患を抱えている人は多数います。
体調に合わせた生活を工夫することで、少しずつ生活しやすくなるようにカウンセリングを行っております。
そして精神疾患・障害が不登校の背景にひそんでいることもあります。
精神疾患や障害とは統合失調症やうつ病、双極性障害、強迫性障害などの精神疾患、自閉スペクトラム症やADHD(注意欠如多動性障害)などの発達障害や知的障害のことです。
統合失調症、うつ病、双極性障害、強迫性障害などの精神疾患がみられる場合は、まずは医療機関での薬物療法が必要です。
その上で、カウンセリングの中で、疾患をもっていることの辛さ、疾患とどう関わっていったらよいか、学校への復帰にはどうしていったらよいかを考えていくことが重要です。
薬物療法だけでも、カウンセリングだけでも不充分で、両者が合わさることで、より充実した支援になります。
自閉スペクトラム症やADHD(注意欠如多動性障害)などの発達障害、知的障害が背景に潜んでいる時には、療育(治療教育の略)的対応が必要になります。
このすべての障害に当てはまることは、実物→写真→絵→文字の順に理解が難しくなるということです。
そのため日常生活では、絵カードを使用することが助けになります。
自閉スペクトラム症の人の場合、時間的見通しの持ち辛さがあるため、絵カードで順に場面を提示してあげると、時間の流れが分かりやすくなります。
文字が分からない知的障害の人にも絵カードは有効です。
またSST(ソーシャルスキルトレーニングの略)といって、社会の中で暮らしていくためのスキルを学ぶ療育もあります。
対人関係を中心とする社会生活技能のほか、服薬自己管理・症状自己管理などの疾病・障害の自己管理技能に関わるものもあります。
例えば、「友達の会話の輪に入りたいけど、きっかけ作りはどうしたらよいだろう?」など具体的課題について考えていきます。
当相談室でも療育的関わりをしているクライエントさんは多数おり、より日常生活・学校生活が充実するように工夫しています。
不登校の背景に家庭の問題、本人の個性という問題が関わっている場合は、カウンセリングやプレイセラピー対応します。
その個人個人で立ち現れている問題は違ってくると思いますが、カウンセリングを行う中で、自己を深めていき、自分について考えていくことが学校復帰への道になることがあります。
この道は一見遠回りに見えますが、実はこの道しかないのです。人間の成長には充分な時間が必要だからです。
河合隼雄先生(京都大学名誉教授)は思春期の一時期を「さなぎの時期」と表現しました。
今まさに内部で凄まじい変化が生じている。だからこそ私たち大人はそれをそっとしっかり見守る必要がある、ということです。
一見すると不登校で家でゲームばかりしているように見えるけれど、内部では凄まじい変化が起こっているということがあるのです。
プレイセラピーでは、例えば人形を使って、自分の辛い状況を再現することがみられることがあります。
子どもが自分の辛い状況を表現して、セラピストがそれを受容的に受け止めながら、辛い気持ちを共感することで、心が癒されていきます。
当相談室では4歳~20歳までのクライエントさんにプレイセラピーを実施しています。
年齢の幅が広いことに驚かれるかもしれませんが、年齢の高いクライエントさんの場合、手作業をしながらのカウンセリングという形をとっています。
対人緊張が強い場合、プレイセラピーは緊張感がほぐれ、自分の心を表現しやすくなるようです。
背景に学校の問題が潜んでいる場合もあります。
いじめがその主な例になります。
いじめが見られる場合、まずは学校に対応してもらう必要があります。
しっかり環境調整して、子どもがいじめられるという状況をなくした上で、カウンセリングやセラピーを考えていきたいと思います。
しかし実際問題、いじめは根が深く、いじめられるという状況をなくした上で、カウンセリングやセラピーに臨むということは難しいと思います。
そのため、学校側にいじめについて対応してもらいながら、いじめられた辛さをカウンセリングやセラピーの中で表現して、カウンセラー/セラピストにそれを共感してもらう、
その共感に力を得て、自己の内面と対話する…という風になるものと思われます。
それは辛い道のりになりますが、自己の内面と対話することで、より一層深い人格が出来上がるものと信じています。
当相談室でもプレイセラピー/カウンセリングは承っており、実際に何人もの方がその道のりを歩んでおられ、状況が改善しておられます。
このように不登校の背景には色々なものが合わさっています。
しかしどのタイプの不登校でも、その状況から復帰するときには、一回り成長した姿がみられることと思います。
その道のりにカウンセラー/セラピストとして同行していけたら幸いです。
なおこ心理相談室
臨床心理士/公認心理師 足立直子
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